津波災害における「犠牲者ゼロ」へ:フローティングデバイス普及に向けた評価指標と社会実装の可能性

近年、南海トラフ巨大地震や日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の発生が懸念されており、津波による甚大な被害が想定されています。一人ひとりの命を守るためには、従来の避難手段に加えて、新たな対策の検討と普及が不可欠です。
水平避難と垂直避難の課題を補完する「津波避難支援デバイス」
東日本大震災以降、津波救命艇や津波シェルターなど、様々なフローティングデバイスが提案されています。しかし、津波に対する危機意識の低さから避難行動が遅れたり、不適切な行動をとってしまうケース、訓練不足による避難時の混乱などが課題として挙げられます。また、地震発生から津波到達までの時間が短い地域や、高齢者や障がい者など避難に時間を要する人々にとっては、安全な場所への避難が困難な場合があります。さらに、低層建築物の多い地域では垂直避難場所の確保が難しく、避難場所での備蓄不足も懸念されます。
これらの課題を補完するために、「津波避難支援デバイス」の活用が注目されています。本稿では、津波避難デバイスを比較評価できる指標を検討し、新たなデバイスの普及促進を目指します。
津波避難支援デバイスの評価指標:ヒト、モノ、カネの視点
津波避難支援に必要な要素を「ヒト、モノ、カネ」の視点で整理し、既存のデバイスを比較評価することで、普及を目的とした重要要素を明確化します。
| 観点 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| ヒト | 教育と訓練 | 使用方法の教育、訓練での利用が容易 |
| 認知度 | 多くの人が見聞きして知っている | |
| 操作の簡易さ | 使用者を選ばずに誰でも容易に利用・操作が可能 | |
| 法規制と認証 | 国内外の規制や認証等をクリアしている | |
| モノ | 素材強度 | 強い衝撃や鋭利な破片との衝突に耐える |
| 耐熱性、耐火性 | 熱や火に強く、燃えにくい | |
| 浸水防止 | 密閉性が高く、内部への水の侵入を防ぐ | |
| 浮力確保 | 水没せず、水上に浮く状態を維持する | |
| 安定性 | 転覆しにくく、一定の向きが維持される | |
| 損傷/破損時の対策 | 二重構造や浮力補助装置の導入 | |
| 温度調節 | 内部温度をある程度一定に保つことができる | |
| 酸素供給 | 水中での避難でも呼吸に支障がない | |
| 展開と使用の迅速性 | 緊急時に即時利用が可能 | |
| 収納と運搬の容易さ | 省スペース化が考慮され、収納・運搬が可能 | |
| カネ | 生産性 | 生産ラインの確立により、需要に応じて供給可能 |
| 導入コスト | 個人・一般家庭が購入可能な価格設定 | |
| 維持管理コスト | 定期点検、メンテナンスのコストが安価 |
既存の津波避難支援デバイス(ライフジャケット、津波シェルター、津波避難タワー)は、長所と短所に偏りがあり、社会実装が困難な状況です。普及(=社会実装)を目的とした場合、上記の要素を満たす必要があります。
SOLAS条約におけるLSAコード:津波避難支援への活用
SOLAS条約(海上人命安全条約)におけるLSAコード(国際救命設備コード)は、津波避難支援に求められる要素との共通点が多くあります。LSAコードは、船舶の安全基準や救命設備の設置を定めた国際条約で、避難用設備の設置を義務付けています。
LSAコード準拠の設備は、以下の要件を満たしています。
- 収容能力:想定する人数を収容可能
- 膨張方式:圧縮ガスによる自動膨張と手動膨張の機能を備える
- 安定性:反転しても元に戻るセルフライト構造、バラスト袋(水袋)で安定性を確保
- 材料と耐久性:耐候性、耐摩耗性、耐腐食性のある素材、紫外線、海水、油脂に耐える
- 設備と備品:飲料水、非常食、信号器具、応急処置用品、雨水収集装置や夜間用照明器具
- 保護構造:風雨や波を防ぐ覆い(キャノピー)、寒冷地での使用に対応した設計
- 耐浮力:全負荷時でも浮力を確保、浸水しても沈没しない構造
- 展開速度と収納性:1分以内で膨張し使用可能、収納時はコンパクトに保管可能
- 動作温度範囲:-30℃~65℃の温度範囲で正常に動作
- 検査とメンテナンス:定期点検が可能な設計、使用期限や点検ラベル付き
これらの要件を満たすLSAコード準拠品を津波避難支援デバイスとして活用することで、ローコスト、全天候対応、コンパクト設計、迅速利用、高い浮力と安定性、多人数収容といったメリットが期待できます。
津波避難支援デバイスとしての「膨張式救命いかだ」の可能性
「膨張式救命いかだ」は、津波避難支援デバイスとしての活用が期待できます。実際に、静岡県清水区の介護付き有料老人ホームでは、屋上に25人乗りの救命いかだを設置し、地域住民を含めた訓練を毎年実施しています。

膨張式救命いかだは、以下のような活用が考えられます。
- 災害時避難要配慮者収容施設(病院、学校、幼稚園、老人ホームなど)への設置
- 不特定多数の人が集まる場所(集客施設、観光スポット、公共施設)への設置
- 津波避難場所(高台、津波避難指定ビル、津波避難タワーなど)への設置
- 港湾施設や工場、漁港等の敷地内や建造物への設置
これらの活用により、災害時避難要配慮者や観光客等の安全確保、短時間で津波到達が想定される地域へのリスク対応、設置コストの低減、柔軟な運用などが期待できます。
まとめ:津波防災・減災に向けた技術革新と社会実装の推進
LSAコード準拠のデバイスは、現在の津波避難手段の課題を補完するポテンシャルがあります。各デバイスの性能を正しく理解することで、各地域にとってより最適な津波防災・減災の対策に繋がる可能性があります。
津波防災・減災とは、一見異なる業界/業種であっても、既存の技術や製品が「津波対策」に大きく貢献できる可能性を秘めています。今後も技術革新による改善と社会実装を進め、誰もが利用できる津波避難体制の確立に向けた取り組みを推進していく必要があります。

免責事項
本記事は、添付資料に基づき作成されたものであり、内容の正確性や安全性を保証するものではありません。津波避難に関する最終的な判断は、関係機関の指示に従ってください。


