津波から命を守る「浮力の力」――潜水士・安部淳さんの証言から考える、次の防災実装へ

津波

2025年3月、日テレのNNNドキュメント番組で放送された「プロなのに… 奇跡的に助かった潜水士が語る津波の恐怖と教訓」は、多くの視聴者に深い衝撃と気づきを与えました。
出演されたのは、宮城県東松島市で夫婦ともども津波に呑まれながら生還した潜水士・安部淳さん。
安部さんが着用していたのは「イマージェンションスーツ(全身型の救命スーツ)」――冷水や漂流に耐えうる、船舶用の救命装備でした。

彼がそのスーツを着たまま生還した事実は、「浮力と保温」が命を守る確かな盾になることを証明しています。
私たち津波セーフプロジェクトは、そのドキュメンタリーを拝見し、「浮くことによる生存確率の向上」は間違いないという確信をあらためて持ちました。

南海トラフの被害想定が示す「備え」の限界

2025年に発表された南海トラフ巨大地震の最新被害想定は、犠牲者数の減少がほとんど見られませんでした。
どんなに防災教育を進めても、避難行動が間に合わない「避難困難者」は一定数残る――。
これは、社会全体で認めざるを得ない現実です。

こうした現状を前に、津波セーフプロジェクトは「避難行動を前提に、それでも逃げ切れなかったときに命を守る装備」を社会に広げる必要があると考えています。
私たちの目指すのは、単なる工学的製品開発ではありません。
被災者の体験や判断、そして「生き抜く知恵」を技術に融合させることを目的としています。

安部さんが体験で証明した「装備の条件」

安部さんの体験は、津波の中で何が「生存の分かれ目」となるのかを具体的に示しています。

2023年のYahoo!ニュース記事(斎藤秀俊氏取材)によれば、彼が身につけていたイマージェンションスーツは、全身を覆う着ぐるみ型の防水防寒装備。
ファスナーを完全に閉じれば、冷水中でも長時間体温を保ち、呼吸と浮力を確保できる構造でした。
ただし、緊急時に素早く着用するには熟練が必要で、「着ながら活動すること」は難しいという課題もあります。

その一方で、安部さんは自身の講演でこう語っています。
「津波の前には“逃げる”が最優先。でも、もう逃げられないとわかった瞬間から、“どうやって生き延びるか”を考えなければならない。」

冷たい巨大津波に流され生還した安倍淳氏が次の世代に伝えたいこと、命の守り方 #知り続ける(斎藤秀俊) - エキスパート - Yahoo!ニュース
動画1 ドライスーツ冷水入水体験の様子。水温は0.5度で、ところどころ氷が張っている(筆者撮影 25秒)「はい、これから背中をプールに向けて足からゆっくりと水に入ってください。水はドライスーツの中に漏

この考え方こそ、私たち津波セーフプロジェクトが共有したい本質です。

「浮いて、冷えず、衝撃を避ける」――理想の津波サバイバル装備とは

イマージェンションスーツの最大の長所は体温維持と浮力の確保ですが、改良の余地もあります。
津波は秒速10メートルを超える流速で漂流物と衝突を引き起こすため、水中での長時間耐久性能や耐衝撃性も欠かせません。

私たちは、「浮いて冷えを防ぎ、狭い空間でも使用できるデバイス」として、
船舶用救命いかだ(ライフラフト)に注目しています。
安部さん夫婦の装備が冷水下での低体温症を防いだように、救命いかだも同じく空気層による断熱・浮力・防水機能を兼ね備えています。

津波や洪水では横方向の衝撃が多数発生します。
その点で、頑丈な構造と複数人が収容可能な船舶用救命いかだは、「生き延びるための最後の避難手段」として大きな可能性を持っています。

デバイス開発は「技術」ではなく「哲学」

津波セーフプロジェクトの開発スタンスは、単なる工学研究ではありません。
目的は、被災者の経験を科学的に解釈し、「技術を生き抜く知恵に変えること」です。

だからこそ、安部さんのように現場で“実際に死を見た”人たちとの協働が欠かせません。
生存した人たちの「なぜ助かったのか?」という要素を丁寧に分析し、社会が再現可能な形で実装すること。
それが、これからの防災科学のあるべき姿だと信じています。

人命を守る装備の開発には、2つの価値基準が必要です。

  1. どんな環境でも命を維持できる物理的性能。
  2. 一般の人が「現実的に手が届く」費用と普及性。

この両立を目指すことが、私たちの挑戦です。

津波セーフプロジェクトの次の一歩

  • 津波時に本当に役立つデバイスの条件を、実体験者の視点から具体化する。
  • 避難困難者や沿岸の事業者など、「逃げ切れない現実」に備える選択肢を提案する。
  • 「防災=生き抜く文化」として社会に根づかせる。

これらの取り組みを通じ、一人でも多くの命を救う「現実的な減災」を実現したいと考えています。

最後に ― 現場の声が導く未来

東日本大震災から14年。
「防災」の言葉が形骸化しつつある今だからこそ、私たちは“現場の知恵”に立ち戻る必要があります。

安部淳さんの経験は、「津波には勝てないが、生き延びる準備はできる」という真実を伝えています。
一方で、南海トラフなど新たなリスクが迫る現代社会において、
その知恵をどう普及させ、どのように社会実装に取り込むかが次の課題です。

津波セーフプロジェクトは、「逃げきれなかった命を、守りきる仕組みを」
技術と記憶をつなぐ防災の次世代を、共に考える仲間として歩み続けます。

よし

I'm Yoshi, a volunteer passionate about tsunami disaster prevention. While working as a salaried employee in my daily life, I participate in tsunami prevention initiatives alongside researchers. Although I don't have specialized knowledge, I aim to contribute to disaster prevention activities from a practical perspective. My hobbies are walking and photography. As I experience the beauty and power of nature firsthand, I continue my efforts to build a safer future. Through this website, I hope to spread knowledge about tsunami disaster prevention and create a safer society together with all of you.
津波防災に情熱を注ぐボランティア、「よし」と申します。日常はサラリーマンとして働きながら、研究者と共に津波防災の取り組みに参加しています。専門知識を持たないながらも、実践的な視点から防災活動に貢献することを目指しています。趣味はウォーキングと写真撮影。自然の美しさと脅威を肌で感じながら、安全な未来を築いていくための活動を続けています。このサイトを通じて、皆様と共に津波防災の知識を広め、安全な社会を創りたいと思います。

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