静岡県清水区の海岸から約800mに位置する介護付き有料老人ホーム「ラ・ナシカ三保の松原」が、津波対策の新たな可能性を示しています。この施設は、想定を超える10m級の津波に備え、2023年に屋上に25人乗りの救命いかだ5台を設置しました。この取り組みは、津波避難における革新的なアプローチとして注目に値します。

LSAコード準拠製品の活用
「ラ・ナシカ三保の松原」が採用した救命いかだは、LSAコード(Life-Saving Appliance Code)に準拠した製品です。LSAコードは、海上における人命安全のための国際基準であり、これに準拠した製品は高い安全性と信頼性を有しています。陸上の津波対策にこうした海洋安全技術を応用することで、より効果的な避難手段を確保できる可能性があります。
地域と施設の協力体制
この老人ホームは市の津波避難ビルにも指定されており、50人の入所者に加えて地域住民の避難も想定しています。毎年、地域住民を含めた避難訓練を実施することで、緊急時の連携を強化しています。施設の担当者は、「入所者を職員だけで上の階に避難させるのは難しい。地域と施設で協力しあって避難できれば」と述べており、地域全体での取り組みの重要性を強調しています。
個別避難計画の重要性
静岡県内では、要支援者の個別避難計画の策定が進んでいないのが現状です。2024年4月時点で、県内の要支援者名簿に掲載されている約42万人のうち、計画が作成済みなのは約2万5000人にとどまっています。この状況を改善するため、富士市では独自の防災アプリを開発し、発災後に支援者と要支援者をマッチングさせる機能を導入しています。
福祉避難所の課題
長期の避難生活による災害関連死を防ぐ「福祉避難所」の整備も重要な課題です。2023年度時点で静岡県内の792施設が福祉避難所に指定されていますが、受け入れる施設側の負担感が増しています。バリアフリー設備の整った公共施設や高齢者施設などが主な対象となっていますが、障害の種類によって必要なケアが異なることや、備蓄の限界などの課題があります。
新たな避難戦略の必要性
静岡県立大短期大学部の江原勝幸准教授は、「要支援者の避難には地域の協力が不可欠」と指摘しています。同時に、「行政は福祉避難所の指定だけを目的とせず、地域を巻き込んだ訓練を行うなど実効性を高めるためにサポートする必要がある」と述べています。
総合的なアプローチの重要性
津波対策には、ハード面とソフト面の両方からのアプローチが必要です。「ラ・ナシカ三保の松原」の事例は、既存の建物を活用しながら新たな避難手段を導入するイノベーティブな方法を示しています。同時に、個別避難計画の策定や地域との連携強化など、ソフト面の取り組みも欠かせません。
今後の展望
津波対策の進化には、以下の点が重要となります。
- LSAコード準拠製品の更なる活用と研究
- 地域と施設の連携強化と定期的な訓練の実施
- テクノロジーを活用した個別避難計画の策定と支援システムの構築
- 福祉避難所の機能強化と運営体制の改善
- 最新の津波シミュレーションに基づく避難計画の継続的な更新
「津波で死ぬことのない世界」の実現に向けて、静岡の事例は重要な示唆を与えています。地域の特性に応じた革新的な対策と、地域全体での取り組みが、より効果的な津波対策につながるでしょう。今後も、新たな技術や知見を積極的に取り入れながら、総合的な津波対策を推進していくことが求められます。


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