2025年6月11日、土木学会の「国土強靱化のための定量的脆弱性評価小委員会」は、最新の被害試算と減災効果を盛り込んだ2024年度最終報告書を公表しました。本報告書は、南海トラフ巨大地震および首都直下地震による社会的・経済的被害を定量的に分析したもので、物価変動も織り込んだ最新シミュレーションが注目を集めています。
国土強靱化定量的脆弱性評価委員会 – 土木計画学研究委員会―The Committee of Infrastructure Planning and Management | 土木学会
なぜ今「定量評価」が必要なのか?
従来の想定と限界
内閣府や各自治体は長年にわたり被害想定を提示してきましたが、それらは「想定最大」のみで、投資対効果など政策判断の根拠としては不十分でした。
本報告の意義
- 被害額や経済損失を定量的かつ比較可能な形で提示
- 防災インフラ投資がいかにリスク低減に寄与するかを分析
災害被害の定量的可視化は、限られた予算をどこにどう使うべきかの合理的判断材料になる(藤井聡・小委員長)
図表で見る被害と投資効果
| 地震種別 | 被害額(物価上昇反映後) | 投資による減災効果(%) |
|---|---|---|
| 首都直下地震 | 約1,050兆円 | 最大40〜50%減少 |
| 南海トラフ地震 | 約950兆円(推計) | 最大30〜45%減少 |
※試算には物流・サプライチェーン寸断の波及効果を含む(2024年度価格ベース)
被害の「中身」を読む
人的被害だけではない
- 社会基盤の破壊(電力・通信・輸送)
- GDPマイナス成長と税収減少
- 労働人口減少による「回復不能リスク」
“複合リスク”の重要性
特に注目すべきは複数災害の連鎖的発生です。南海トラフ地震直後に首都直下地震が起きるようなケースでは、復旧不能な「国家機能の崩壊」リスクも懸念されています。
複合災害の想定がなければ、“一発KO”の国難リスクは見逃される(報告書第2章)
防災インフラ投資は“費用”ではなく“資産”
明確なコスト対効果の提示
| 投資項目 | 投資額 | 損失軽減額 | B/C比 |
|---|---|---|---|
| 首都圏主要橋梁 の耐震補強 | 1兆円 | 5兆円 | 5.0倍 |
| 高台避難システム整備 | 0.6兆円 | 3兆円 | 5.0倍 |
| 広域停電対応インフラ | 1.2兆円 | 6兆円 | 5.0倍超 |
※出典:報告書付録3より筆者要約
報告書の構成と読みどころ
- 本編:被害分析・政策提言(全150ページ程度)
- 要旨版:一般向けダイジェスト(約10ページ)
- 付録:地震シナリオ・経済モデル・試算表など
報告書は政策提案というより“行動促進型の知見集”である(報告書あとがきより)
今後の展望と期待
政策への影響
今後、国交省・内閣府・自治体が「定量根拠に基づく防災政策」へと転換する可能性があります。
民間セクターへの波及
- インフラ企業による再評価・再整備
- 保険料率の見直しとリスク評価
- 企業BCP策定の根拠資料に
まとめ:被害を“知る”ことが最大の防災
災害は確率的な「自然現象」ではなく、“未然に防げる経済災害”です。被害を知り、数値で理解し、合理的な対策を講じることこそが、国土強靱化の第一歩です。
📎 公式リンク:土木学会 国土強靱化のための定量的脆弱性評価小委員会


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