南海トラフや千島海溝の巨大地震。ニュースを見るたびに不安は感じるけれど、心のどこかで「きっと国や自治体がなんとかしてくれる」と思っていませんか。
結論からお伝えすると、津波から命を守るカギは、“公助”より前に、あなた自身と大切な家族の小さな一歩(自助)です。そして、その一歩は決して難しいものではありません。
この記事は、東日本大震災の語り部・防災士である紺野堅太さんと、津波セーフプロジェクトの共同企画として、「心が動いたあとに、実際に何をすればいいのか」を具体的にまとめたものです。
「公助だけでは守りきれない」を示す、語り部アンケートの結果
紺野さんは、岩手県釜石市で中学生として東日本大震災を経験し、その実体験を全国の病院・企業・学校で語り続けています。

その語り部のあとに実施されたアンケート結果を見ると、「公助だけに頼っていては危ない」という事実が、数字として浮かび上がってきます。
病院職員、企業の従業員、中学生・高校生・小学生など、5つの会場でのアンケートでは、語り部のあとに
- 「家族とハザードマップを見る」
- 「家族と避難場所とルートを確認する」
と答えた人が、いずれも6〜8割にのぼりました。
また、「語り部を聞いたあとに、家族や友達と防災の話をした/これから話したい」と答えた人は、アンケートの7〜9割に達しています。
つまり、一回のリアルな語り部がきっかけになって、
- 家族会議が開かれ
- ハザードマップが開かれ
- 避難ルートが確認され
- 防災リュックの準備が動き出している
ことが、はっきりと数字で示されているのです。
これは裏を返せば、「何もしないまま」では、公助だけでは守りきれない命が必ず出てしまう、ということでもあります。
被災地の声が教えてくれる「想定外」と「時間切れ」
アンケートの自由記述には、こんな言葉が並んでいます。
- 「ハザードマップを信じるな。とにかく高い場所に逃げることが大事だと思った」
- 「自然災害は常に予想を超えてやってくる」
- 「避難場所だからといって安心できないことが分かった」
多くの人が、「想定外を想定内にする」「自分の身は自分で守る」というメッセージを、強い印象とともに受け取っています。
これは、東日本大震災の被災地で実際に起きたことを聞いたからこそ、出てくる言葉です。
南海トラフや千島海溝地震の想定でも、「津波到達までの時間が極端に短い地域」や「高台まで遠い地域」が多数あります。
そのときに、
- 「市役所が避難させてくれるだろう」
- 「防災無線が鳴ってから考えればいい」
と構えていると、物理的に“間に合わない”ケースがどうしても出てしまいます。
実際、あるアンケートでは山間部の参加者が、
「津波は自分には関係ないと思っていたが、旅行や仕事で海辺に行くときは自分事だと反省した」
と書いていました。
「ここは大丈夫」と思っている人ほど、「自分は平気だろう」と考えてしまう“正常性バイアス”が強く働きます。
だからこそ、被災地のリアルな声を聞き、「本当にこのままでいいのか?」と一度立ち止まることが大切なのです。
語り部は「不安を煽る」ものではなく、「行動を生み出す」きっかけ
5つのアンケートすべてに共通していたのは、「聞いたあとに、何かを“やってみよう”と決めた人が多数いた」という点です。
「やってみよう」の内容として多かったのは、次のようなものです。
- 家族とハザードマップを見る(6〜7割)
- 家族と避難場所とルートを確認する(6〜7割)
- 実際に避難場所まで歩いてみる(3〜4割)
- 防災リュックを用意する(2〜5割)
中には、
「今までは防災訓練を面倒だと思っていたが、本気で取り組もうと思った」
「離れている大切な人を守るには、普段からの教えが大切だと感じた」
といった声もありました。
つまり、語り部は「怖い話を聞かせる場」ではなく、
“自分ごと”として防災を考え、行動のスイッチを入れる場
として、確かに機能しているのです。
これは、「国や自治体が何かしてくれる」を待つのではなく、一人ひとりの“気づきと行動”が、津波リスクを現実的に下げている証拠だと言えます。
今日からできる、3つの自助アクション
正常性バイアスが強いのは、ある意味で“普通”の心の働きです。
だからこそ、完璧な備えを目指すよりも、「これだけはやる」という自助の最低ラインを決めることが大切です。
紺野さんの語り部アンケートと、津波セーフプロジェクトの知見から、次の3つをおすすめします。
① 家族でハザードマップを見る(たった10分)
自宅・職場・子どもの学校から見て、
- 歩いて行ける中で一番高い場所
- 津波浸水想定区域から外れている場所
を、まず一つ決めます。
さらに、「そこがダメだったときの次の避難先」も、もう一つ考えておきましょう。
実際の被災地では、「指定避難所に津波が来て、さらに高い場所へ避難した」事例が少なくありません。
② 避難ルートを一度だけ歩いてみる
半田中学校のアンケートでは、語り部後に「避難場所まで散歩をしてみる」と答えた生徒が4割を超えました。
坂道のきつさ、信号や踏切の位置、夜道の暗さなどは、実際に歩いてみないと分かりません。
特に、高齢の家族や小さな子どもがいるご家庭では、
- 一緒に歩いてみてどこで苦しくなるのか
- 付き添う側はどのくらいのペースなら安全に歩けるのか
を、平時に確認しておくことが何よりの備えになります。
③ 「逃げ遅れたときの最終手段」も、家族で一度だけ話してみる
津波セーフPJは、
- 高台避難が最優先であることを大前提としつつ、
- 避難困難地域や、高齢者・幼児・病気・障がいのある方など、どうしても「間に合わない人」がいる、という現実
を踏まえ、「浮くことによる生存確率向上を目指したデバイスや創意工夫」についても研究・発信しています。
東日本大震災では、
- たまたまつかんだトタン板
- 船舶用のイマ―ジョンスーツ
- 発泡スチロールなどの浮力体
によって、“浮き続けたことで生き延びた人たち”が実際にいました。
紺野さんのアンケートでも、「避難弱者をどう守るかは国レベルの課題だが、まず自分を守ることから」という声が寄せられています。
「逃げ切れなかったとき、どうやったら浮き続けられるか?」
を、家族で一度だけでも話題にしておくことは、決して大げさなことではありません。
あくまで「最後まであきらめないための選択肢」として、心のどこかに置いておくイメージです。
まとめ:10分の家族時間が、命を守る“本当の準備”になる
南海トラフや千島海溝地震による津波は、「国や自治体が何とかしてくれる」だけでは命を守りきれない可能性があります。
紺野さんの語り部アンケートが示すように、命を守るのは、最後は一人ひとりの小さな自助の積み重ねです。
被災地の実体験からは、
- ハザードマップを信じすぎない
- 想定外を想定内にする
- 自分の身は自分で守る
という教訓が繰り返し語られています。
語り部をきっかけに、多くの人が「家族と話し合う」「避難ルートを確認する」という一歩を踏み出し始めています。
もし、あなたが今、
- 津波は心配だけど、正直何もできていない
- 「国や自治体がなんとかしてくれるはず」とどこかで思っている
と感じているなら、今日10分だけで構いません。
家族と一緒にハザードマップを開いてみてください。
そして、「もし逃げ切れなかったら、どうやって浮きつづけられる状態を確保するか?」を、一度だけ話題にしてみてください。
その10分が、南海トラフや千島海溝の“想定外”から、あなたと大切な人を守る、いちばん現実的で確かな一歩になります。

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