津波で父を亡くした私が、いま“語り続ける”理由

語り部

――「泳いで逃げた」体験から見えた、南海トラフ級津波への備え

結論:公助だけでは守れないいのちがある

南海トラフ地震や千島海溝地震による「想定外の大津波」が心配だけれど、「国や自治体が何とかしてくれるはず」と、どこかで思っていませんか。
結論からお伝えすると、津波避難困難地域に住む私たちのいのちは、公助だけでは守り切れません。
避難タワーやハザードマップが整っていても、最後に生死を分けるのは、その瞬間に「自分の判断で動けるかどうか」です。
そのことを、東日本大震災の津波で父を亡くし、自らも「泳いで逃げて」生き残った香月昴飛(かつき・すばる)さんの体験が教えてくれます。

津波で父を亡くし孤児に 泳いで近所の家に避難、体験語り防災教育 香月昴飛さん(32) あの日からあの場所で 東日本大震災15年
段ボールを何層にも重ねてまちの地形を作ると、平面では見えてこなかった高低差や浸水などの危険な地域が見えてくる。一般社団法人「防災ジオラマ推進ネットワーク」が開…

想定外の津波の前では、準備していない「普通の人」が一番危ない

2011年の津波で、多くの方が「まさか、ここまで来るとは思わなかった」と証言しています。
これは「正常性バイアス」と呼ばれ、人は自分に都合のよい情報だけを集めて「たいしたことはない」と判断しがちだとされています。
「ここは津波避難困難地域だけど、これまで大きな津波は来ていない」「市役所から特に何も言われていないから大丈夫だろう」――こんな日常の感覚こそが、南海トラフ級の想定外の大津波の前では、もっとも危険です。

行政はハザードマップを作り、避難訓練を企画し、避難情報を出します。
しかし、発災のタイミングが夜間かもしれない、停電で情報が届かないかもしれない、道路が渋滞して「水平避難」ができないかもしれない。
その一つひとつが重なったとき、公助は「届くべき人」に間に合わない可能性があります。
だからこそ、自宅や職場、学校の「今いる場所」から、どうやって命を守るかを、普段から自分で考えておく必要があるのです。

父を亡くし、泳いで逃げた香月昴飛さんの体験

ここで、実際に津波で父親を亡くし、自らは泳いで避難して生き残った香月昴飛さんの体験を紹介させてください。
香月さんは東日本大震災のとき、父親と一緒に津波から逃げようとしました。
しかし、あっという間に黒い水の壁にのみ込まれ、気づいたときには、父の姿は見えず、周囲は瓦礫と渦巻く濁流でいっぱいだったそうです。

香月さんは、子どもの頃から父に教えられた泳ぎで、必死に水面に出て、近所の家の屋根まで泳いでよじ登り、なんとか命をつなぎました。
一方で、父はそのまま津波にのまれ、帰らぬ人となりました。
「どうして自分だけが生き残ったのか」――その問いは、15年経った今も香月さんの中で消えていません。

時間がたつ中で、香月さんはあることに気づいたと言います。
「もし父が泳ぎを教えてくれていなかったら、自分も確実に死んでいた」という、冷静でシンプルな事実です。
それ以来、香月さんは学校や地域の防災講話で、自分の体験を「物語」として語り続けています。

彼が伝えたいのは、「泳げれば助かる」という話ではありません。
「普通に暮らしていた一人の市民が、たまたま身につけていた力や事前の準備によって、生死が分かれてしまう現実がある」ということ。
そして、「自分はどうするか」を、聞き手の心に問いかけることです。

あなたが今日からできる「自助」の一歩

では、南海トラフや千島海溝などの巨大地震による津波が心配な地域で暮らす私たちは、何をすればいいのでしょうか。
ここでは、心理的な不安を無理にあおるのではなく、「日常の延長でできること」に絞ってお伝えします。

  1. 自宅・職場・学校ごとに「今ここで揺れたら、どこへ逃げるか」を言葉にする
     地図アプリや自治体の津波ハザードマップを見ながら、家族や同僚と一緒に「揺れたらここ」「津波警報が出たらここ」と、避難先を会話の中で具体化しておきます。
  2. 「垂直避難」の選択肢を真剣に検討する
     水平避難が間に合わない津波避難困難地域では、高い建物の上階や津波シェルターなどへの垂直避難が、生き残る唯一の現実的な選択肢になるケースがあります。
     どの建物が安全そうか、夜間や豪雨のときに本当にたどりつけるかを、日中のうちに歩いて確認しておくことが大切です。
  3. 家族の中で「逃げるルール」を決めておく
     「揺れが長く続いたら、合図を待たずに高い場所へ逃げる」「津波警報が出たら、必ず車ではなく徒歩で移動する」など、家庭内のルールをシンプルな言葉で共有します。
     ルールを紙に書いて冷蔵庫に貼るだけでも、いざというときの迷いを減らせます。
  4. 香月昴飛さんのような「語り手」の話を一度は聞いてみる
     自治体主催の防災講演会や、被災経験者の語り部の会は、つい「時間がないから」と見過ごしがちです。
     しかし、香月さんのような「実際に津波を経験した人の物語」は、正常性バイアスを揺さぶり、自分ごととして考えるきっかけになります。

技術や制度と「人の物語」をつなぐ役割

私たち津波セーフPJは、津波シェルターや避難の選択肢に関する技術的な検討だけでなく、「人の物語」を防災教育にどう生かすかを重視しています。
AIやシミュレーション技術によって津波の到達時間や浸水範囲の予測は精緻になりつつありますが、その情報を「自分の行動」につなげるには、地域の一人ひとりの実感に寄り添う“翻訳”が必要だと考えるからです。

香月昴飛さんの体験を、単なる悲劇の記録として終わらせるのではなく、南海トラフや千島海溝といった「これから起こりうる巨大津波」への備えにつなげる。
その橋渡しをすることこそが、津波セーフの独自の役割だと私たちは位置づけています。

あなたの一歩が、誰かのいのちを守る

もし今、「うちは高台だから大丈夫」「たぶん行政が何とかしてくれる」と少しでも思っている自分に気づいたなら、それは正常性バイアスに気づいた第一歩です。
そこで終わらせず、「じゃあ、念のために何を決めておこうか」と、今日5分だけ時間をとってみてください。

・スマホで自宅周辺の標高とハザードマップを確認する
・家族に「地震が来たとき、どこへ逃げることにしようか?」と声をかける
・自治体の防災メールや津波情報の配信サービスに登録する
・次の防災講演会や語り部の会の予定を、1回分だけカレンダーに入れる

これらはすべて、「公助に任せきりにしないための、自分でできる小さな自助」です。
その小さな一歩が、将来の南海トラフ地震や千島海溝地震のときに、あなた自身と、あなたの大切な人の命を守る“決定的な差”になるかもしれません。

津波セーフPJでは、津波避難困難地域に暮らす方々が、無理なく・具体的に一歩を踏み出せるような情報発信とツールづくりを続けています。
もし、「自分の地域ではどう考えればよいのか知りたい」「津波シェルターや垂直避難についてもっと詳しく知りたい」と感じたら、ぜひ私たちの最新記事ページや問い合わせ窓口にアクセスしてみてください。
香月昴飛さんのような語り手の経験、最新の研究成果、そして皆さんの日常感覚をつなぎながら、「想定外の大津波」でも命をあきらめない社会を一緒につくっていければ幸いです。

よし

I'm Yoshi, a volunteer passionate about tsunami disaster prevention. While working as a salaried employee in my daily life, I participate in tsunami prevention initiatives alongside researchers. Although I don't have specialized knowledge, I aim to contribute to disaster prevention activities from a practical perspective. My hobbies are walking and photography. As I experience the beauty and power of nature firsthand, I continue my efforts to build a safer future. Through this website, I hope to spread knowledge about tsunami disaster prevention and create a safer society together with all of you.
津波防災に情熱を注ぐボランティア、「よし」と申します。日常はサラリーマンとして働きながら、研究者と共に津波防災の取り組みに参加しています。専門知識を持たないながらも、実践的な視点から防災活動に貢献することを目指しています。趣味はウォーキングと写真撮影。自然の美しさと脅威を肌で感じながら、安全な未来を築いていくための活動を続けています。このサイトを通じて、皆様と共に津波防災の知識を広め、安全な社会を創りたいと思います。

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